PFS報道、アメリカの医師は患者にどう説明したか？２

フィナステリドの副作用に関しては色々なうわさが飛び交っています。その中で有名なのが、

立たなくなる

といった性的な副作用を心配する声です。いわゆる”ポスト・フィナステリド症候群”（Post-Finasteride-Syndrome=PFS）です。

AGA病院で聞いてみると、

心配しなくても大丈夫ですよ。ネットであおられているほどその副作用は発現しません。当院でも１％くらいですし、その方々もフィナステリドを飲むのを止めたら元に戻りましたので。

的な回答がほとんどです。ほとんど、というのは中には

薬、こわーい

みたいな医師もいるからです。そういう先生はアメリカでの騒動を念頭に置いているようです。

では、"本家本元"のアメリカでは、医師は患者にどのように説明しているのでしょうか？アメリカで評判の名医であるコロンビア大学の皮膚科学教授バーンスタイン先生の患者とのやり取りです。

マスコミに取り上げられたプロペシアの調査報告は間違ってませんか？

2013年3月15日

Is Propecia Persistent Side Effects Study Reported in the Media Flawed?

質問

昨年報じられたプロペシアの記事を読んだ時は、プロペシアを飲んでいたので驚きました。なんでも、プロペシアに起因するうつ病や勃起不全の割合は非常に高く、その症状は薬の服用を止めた後も続くとのこと。

しかし、その調査方法を読んでみると、プロペシアを服用した61人の男性のうち既に性的な障害のある人にうつ症状の有無を聞いたもののようです。その上で、この調査のうつ病の割合は、プロペシアを飲んだことのない薄毛の男性に対して行った小規模の調査でのうつ病発症率と比較されていました。

基本的な統計知識のある人なら、このような調査に致命的な欠陥があると分かるはずです。まず、対象者の抽出方法がいけません。教科書的な典型的な間違いですね。正しい調査結果を得たいなら、恣意性を排除すべく、プロペシアを服用した人を無作為に選ばなければならないのに、この調査では既に性的な障害を発症している人を選んでいますね。

また、この調査は、相関関係と因果関係とを混同していませんか。EDやうつ症状があるからと言って、必ずしもそれが薬によって引き起こされたとはならないと思います。私は何か重要なことを見落としているのでしょうか？それとも、メディアは実際に調査されたことについてろくに検証もせず、この "調査結果"とやらを報道しただけなのでしょうか？

回答

おっしゃる通りだと思います。今回の調査の実施方法は、調査結果の正確性に多くの懸念（疑念）が表明されています。しっかりと恣意性が入らないようコントロールされた方法で、新ためてデータを集めることが重要です。そうすることで患者に正確なアドバイスをしたい医師にとって非常に有用なデータとなります。

私は昨年のこの報告書の提起した懸念に取り組みました。今後も、このフィナステリドによる性的な機能不全の後遺症（ポスト・フィナステリド・症候群）は、継続して慎重に検証すべき仮説です。私はフィナステリド有害事象に関する国際毛髪外科学会（ISHRS）のタスクフォースのメンバーですので、これからも注意深く見守っていきたいと思います。

という事でした。分かりにくいとは思いますが、重要なことなのであえて原文に忠実に訳しました。一応、ちょっと捕捉します。

「フィナステリドを飲むとうつ病になる」を証明したいなら、（１）フィナステリドを飲んでいる人とフィナステリドを飲んでいない人を比べるのではなく、（２）フィナステリドを飲んでいる人と、フィナステリドだと思って偽薬（有効成分の入っていない”小麦粉”）を飲んでいる人とを比較しなければなりません。

なぜなら、どんな薬でも、プラセボ効果と言って飲んでいるという事実だけでその気になって効果・副作用が出るからです。特にインポやうつ症状のような心理的な影響の出やすい症状の場合はなおさら。例えば、ザガーロの日本の臨床試験では偽薬を飲んだ人の15％で副作用が出ています。

この調査の間違いはこれだけじゃなくて、「フィナステリドを飲んでいる間に性的な障害が出た＝フィナステリドが障害を引き起こした」と論理展開している所。これが間違いであるのは上の説明の通りですが、「逆は必ずしも真ならず」と高校の時の数学で習わなかったのでしょうか？

こうした知識は、調査をしたことのある人なら常識なのですが、あろうことか、アメリカの名門大学の医師が言い出したため、変に信ぴょう性を持って騒ぎになってしまったようです。

心配ならお医者さんに聞きましょう。

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